Column

コラム

「 人の手」から「デジタル」へ。YOKOHAMA Hack! がもたらす可能性

2025.10.17
岡谷エレクトロニクス株式会社

2022年にスタートした「YOKOHAMA Hack!」は、行政が抱える課題を公開し、民間企業のデジタル技術と結びつける創発・共創のマッチングプラットフォームです。

アイデア募集・ワーキング実施後、提案内容の効果や有効性の検証が必要な場合は実証実験を実施し、実際の課題解決に向けた取り組みを進めます。

本コラム連載は、資料だけでは見えにくいYOKOHAMA Hack!の意義・背景・効果を、現場での体験や声とともにお伝えすることを目的としています。実証実験や提案に携わった民間企業や、行政課題の解決に取り組んだ横浜市職員へのインタビュー等を通じて、YOKOHAMA Hack!の価値、参加するメリットを共有します。

コラム第1回は、交通量調査のICT化に関する実証実験にLiDARを活用して参加した岡谷エレクトロニクス株式会社清水直弥氏に提案・実証実験時の体験談や企業から見た「YOKOHAMA Hack!」の価値についてお話を伺いました。

実証実験概要

横浜市の交通量調査は、交通状況の把握や将来における道路計画・整備効果・維持管理等の基礎データを取得するため、交差点を対象に人力による観測で実施していました。しかし、慢性的な人手不足と膨大な集計・統計作業による負担が課題となっており、調査の効率化に向けた見直しが必要でした。

そんな従来の交通量調査を、センサーとデータ分析で見える化したのが同社の提案です。実証実験では交差点の電柱に設置したLiDARで車両・歩行者の流れを取得し、方向別・車種別の交通量、速度、大型車判別、信号サイクルごとの滞留まで把握、人力による観測との整合も検証しました。

※LiDARとは:Light Detection And Ranging の略称。無数のレーザー光を照射し、各反射光の情報をもとに対象物の位置情報を計測する技術

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岡谷エレクトロニクス株式会社 テクノロジー本部 清水直弥氏

提案・実証時の体験談

―最初に、この課題に取り組もうと考えた理由を教えてください。

清水氏:人手不足や人力による計測のばらつき、夜間・悪天候時の調査の難しさが背景にありました。デジタルで代替しつつ、人力による計測ではわからない交通安全上の問題や渋滞要因の見えないサインまで拾えるのでは、と考えました。紙のデータ一覧表では見逃しがちな交通量のピークや滞留・赤信号時の密集・斜め横断といった例外的事象も、LiDARでは継続的に可視化できます。

―LiDAR技術構成のポイントはどこでしょうか。

清水氏:交差点周辺に小型のLiDARセンサーを設置して取得したデータを解析することで、車両や歩行者の動線や速度、車種を判別し、信号サイクルごとの滞留状況や斜め横断の発生も可視化しました。

―横浜市とのやり取りで印象に残ったことはありましたか。

清水氏:機材を置いてデータを取得するところから始めず、「どんな意思決定に使うデータが必要か」を密にすり合わせられたことです。横浜市の担当者と直接ディスカッションし、現場の課題感に照らして指標を絞り込めたのは大きかったですね。

―現場での実証ならではの気づきはありましたか。

清水氏:定常的に混むわけではない時間帯限定の滞留や、赤信号時に横断待ちが密集するポイント等、感覚的には認識していても根拠が取りにくかった現象がデータで裏づけられました。安全対策の優先順位づけにもつながる示唆が得られたと思います。大型車の比率や方向別の動きも把握でき、交差点改良の検討材料になりました。

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実証後の展開

―得られた成果を教えてください。

清水氏:LiDARの測定結果を人力による計測と照合することで高い整合を確認できました。加えて、速度や走行軌跡、大型車の比率といった付加価値データの有用性も示せました。

―社内外への波及効果はありましたか。

清水氏:横浜市の管理者視点を踏まえたフィードバックを反映することで、成果物の標準化が進み、他自治体への提案展開が容易になりました。また社内でも社会貢献と事業性の両立に向けた議論が進みました。

―見えてきた実証実験の課題や今後のアップデートはありますか。

清水氏:今回は比較検証の性格が強く、企業間で協働して一つの解を磨き上げる場にはなり切れませんでした。実証実験の内容が確定する前に、横浜市の担当部署と企業が実験内容について議論し合意形成できる場があると、参加ハードルが下がり協働が深まると思います。コストだけで判断されないよう、安全対策や道路管理等、隣接領域へ展開できる工夫も必要です。

企業から見た「YOKOHAMA Hack!」の価値

―YOKOHAMA Hack!の価値はどのような点でしょうか。

清水氏:現場のリアルから必要なデータを逆算して設計できることです。横浜市で磨いた指標や運用の勘所を標準化し、他都市へ横展開する道筋が描けました。

―最後に、行政×民間の共創を進めるヒントはなんでしょうか。

清水氏:大切なのは、実証実験を製品の比較で終わらせないことです。実証結果を踏まえ、コストだけではなく、より高度な安全対策等の付加価値も評価し、横浜市の業務への実装まで見通せる仕組みを整えることが、共創を前に進める鍵だと考えます。

本インタビューでは、岡谷エレクトロニクス株式会社様の交通量調査のICT化に関する提案・実証時の歩みと、実証後の展望について伺いました。お忙しい中、ご協力いただきありがとうございました。