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コラム

行政課題解決は「アイデア」から始まる。YOKOHAMA Hack! の可能性とは

2025.11.21

2022年にスタートした「YOKOHAMA Hack!」は、行政が抱える課題を公開し、民間企業のデジタル技術と結びつける創発・共創のマッチングプラットフォームです。

本コラム連載は、資料だけでは見えにくいYOKOHAMA Hack! の意義・背景・効果を、現場の体験や声とともにお伝えすることを目的としています。

コラム連載第2回は、複数のテーマでアイデア提案やワーキングに参加していただいたソフトバンク株式会社 コーポレート統括 CSR本部 地域CSR統括部 鳥居氏にお話を伺いました。行政と民間が交わる「入口」としての「アイデア募集」の魅力と、そこから見えてきた共創の可能性についてお聞きしました。

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ソフトバンク株式会社 CSR本部 地域CSR統括部 鳥居 郷一氏

YOKOHAMA Hack! アイデア募集の背景と概要

YOKOHAMA Hack! の「アイデア募集(※1)」は、行政課題に対し幅広い視点から解決策を募る仕組みです。ソフトバンク株式会社にはこれまで、「避難所の防犯カメラ導入」、「ICTを活用した子ども見守りサービス」など、複数のアイデア募集に対し、提案やワーキング(※2)に参加していただきました。

その役割を担ってきたのがCSR本部の鳥居氏です。横浜市から課題が提示されると、自社内外の担当部署をつなぎ「どの技術なら応えられるか」を見極め、ワーキングに臨む——そうした「橋渡し役」を務められています。

※1 アイデア募集:行政課題を抱える所管課から、解決したい課題(ニーズ)を公開し、解決策の提案を募集する。

※2 ワーキング:デジタル技術を有する企業の関係者が一堂に会し、課題解決に向けた方策について意見交換をする。

―これまでYOKOHAMA Hack!のアイデア募集に複数のアイデアを提案された背景を教えてください。

鳥居氏:私どもの部署はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任を担う部門)の立場から、横浜市の行政課題を受け取って社内に展開する「ハブ」の役割を担っています。対応できる部門や技術を見つけ出し、適切な担当者を行政との対話の場につなぐことで、企業側としても「自社の技術が行政課題にどう貢献できるか」確認することができます。

―YOKOHAMA Hack! の「アイデア募集」にはどのような魅力を感じますか。

鳥居氏:一番の魅力は、参加のハードルが低いことですね。公募の場合、要件や仕様が細かく定められていることが多く、提案の自由度が限られることもありますが、「アイデア募集」では課題の抽象度がちょうど良く、提案の幅を持たせやすいと感じます。行政側も「こういうやり方もあるのでは」と受け止めてくれるので、特定の技術や企業に偏らず、幅広い提案が受け入れられるという意味で公平性が保たれていると感じます。

―応募にあたり、社内でのプロセスや視点はどのように大切にしていますか。

鳥居氏:最初から「完璧な提案」を出そうとするのではなく、まずは参加し、対話の中で形にしていく姿勢を大切にしています。実際のワーキングでは「これはできないが、こうすればできるのでは」といった調整や工夫が生まれ、結果として現場に即した解が見えてくることが、書類上のやり取りだけでは得られない価値だと思います。

―行政との対話から新たな気づきはありましたか。

鳥居氏:とても多いです。職員の方々が現場で本当に困っていることを率直に共有してもらえることで、課題に対する解像度がぐっと上がります。そこに「自社でできることは何か」と照らし合わせると、単なるソリューション提案ではなく、課題に寄り添った共創の形が見えてきます。結果として、社内のメンバーも「社会課題にどう貢献できるか」という意識をより強く持つようになりました。例えば、避難所の防犯カメラ導入や子ども見守りサービスのテーマでは、「安全をどう確保するか」、「現場で運用しやすい仕組みとは何か」といった視点で議論を深めました。提案やワーキングを通じて行政の課題理解が一層進んだと感じています。

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ソフトバンク株式会社の提案の一例

―こうした取組に提案やワーキングという形で参加することには、どのような意義を感じていますか。

鳥居氏:はい。実証に至らなくても、行政と直接意見交換できる機会そのものが大きな価値だと実感しています。双方の理解が深まり、「次につながる」関係性が築かれる。こうした経験を通じて、今後の実証や新たな協働へ発展していく可能性を感じています。

―これまでの取組の中で、難しさを感じた点はありますか。

鳥居氏:やはり採算性の壁ですね。大きなニーズがあっても、自社サービス化するためのコストや横展開の見通しが立たないと、なかなか踏み切れない現実があります。ただし、その過程で得られる学びやつながりは、次の事業展開や他自治体への応用に必ず活きると考えています。

―今後、YOKOHAMA Hack! に期待することを教えてください。

鳥居氏:横浜市職員の皆さんがもっと気軽に課題を投稿できる環境が整うといいと思います。「まずはYOKOHAMA Hack! に投げてみよう」という文化が横浜市役所内で根づけば、企業側もさらに多様な視点で応えられるようになるでしょう。また、入札や補助金事業とYOKOHAMA Hack!の違いを横浜市側でも分かりやすく説明する工夫があると、理解も深まるはずです。

まとめ

「実証実験の有無にかかわらず、対話そのものが価値になる」。鳥居氏の言葉は、YOKOHAMA Hack! が生み出す仕組みの本質を示しています。通常の委託プロセスとは異なる入口のハードルの低さと対話の深さが、官民の新しい関係性を形づくり、未来の行政サービスをつくる土台となります。自治体として、民間事業者からの積極的な参加を促すことが共創への第一歩となることを再確認しました。

お忙しい中、ご協力いただいたソフトバンク株式会社に心より御礼申し上げます。